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コミュニケーションスキルを身につける
Wendy カナダのドクター・バットマンは、真実をひどい形で伝えることは真実を伝えないよりも害があると言っています。そして緩和ケアのプロとして働いているものとして、その他のプロフェッショナルの人たちにこういったことに関するスキルなどをきちんと教えていく責任があると思いますし、あえて言わせていただければ、私たちの非常に重要な責任の一つがコミュニケーションのスキルを教えることであると言いたいと思います。ジュニアのドクターやナースがトレーニングを受けずに真実を告げたり、告知をしたりすることができるとは思わないほうがいいと思います。
また、ピースハウスのようなホスピスが緩和ケア教育の中心としてそういったことを教えていくことも非常に重要だと思います。
−告知をして安らかな死とか安らぎを得られるのではないかというような目的があるように聞こえたのですが、真実を知らされても安らかな死というのはすごく難しいと思うのです。その中でいろいろ葛藤がある。ですからこのケースを読んで思ったのは、安らかではないかもしれないけれども、少なくともこの人なりに納得された、それが周りが見ていて安らかというようになるのではないか。医療者が言葉の重みとかでこういう言葉を発したら、この方にとっては安らかではなかったのではないかというような評価をしなくてもいいのではないかという気がしました。その時その時にその方の求めていることに応えていく、それが告知ということではないのかと感じ取らせていただきました。
西立野 たいへんいいコメントで私も同感です。何か症状があったときにそれをすべて治さなくてはいけないと考えがちなのですが。多分そうではないのではないかと患います。いちばん患者さんが大事に思っていることが叶うように手伝ってあげることではないかと思うのです。
武田 私の病院が患者さんにいろいろなことをあからさまに言っているように聞こえていると思うのですが、癌ですよ、ハイさよならということではありません。なるべく早く知らせる、責任者である主治医が知らせることを基本にしていますが、病院のポリシーとしてそういうことをただ掲げているだけではありません。多くの場合、診断が確定して、医師としてこれは胃癌に間違いないと思ってからどう知らせようかとするから皆さんあわてるのです。確定した診断の内容をきちんとお話しするのは、やはり少し時間をかけるということをしますが、その時に私への報告によりますと、話を聞いて卒倒した人はいたと、しかしそれは全部家族であって本人であったことは一人もないということであります。
こういうことを考えていく基本に、医の倫理を考えよう、インフォームド・コンセントのことを考えようというようなことなのですが、本人の意思をいちばん大事にしていこうということが第一点。それは基本的人権を尊重してあげるなら尊重していると言っている人が相手に嘘が言えるはずがない、基本的人権を尊重するということは相手に嘘を言わないことである、それから嘘があれば人間関係は崩れるだけであって構築されない、というようなことであります。
もう一つ、30%くらいの患者さんに本当のことを言っていたころですが、残りの患者さんのほとんどは癌であると知っていたり、自分の知識でわかっていたり、あるいは多分そうに違いないという疑いをもっているという事実もっかめてきましたので、意思の疎通を図ろう。そのかわり告げ方、話し方、先ほどのコミュニケーションスキルを学ぼうではないか。こういうカンファレンスを院内で開いていろいろ勉強もしましれそして、コミュニケーションスキルがなくて癌であると告げるのは、外科医でいえば止血の方法を学ばないで切っているということと同じなのだから、止血法をきちんと覚えた人が手術をしてもいいのだというくらいの厳しいことをやろうではないかと。
嘘を言うのは患者さんのためであるというのはどうも嘘であるということがわかってきたのは、外国の本にも書いてありますが、私の病院でも患者さんのためにはならないということが実地検証されはじめているのです。患者さんはどんな苦難であってもたいてい乗り越える力は持っている、その力をいかに引き出すかというのが、コミュニケーションスキルではないかと思いますし、また緩和ケアの技術でもあるのではないかと思います。
西立野 それではこのセッションを終わります。
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